精神疾患等を持つ方への対応
社協名 | 浪江町社会福祉協議会 |
時 期 | H29.6~ |
【背景】
- 浪江町は原発事故により全町避難となり、約2万人の町民は県内外に避難している。H29年3月31日に帰還困難区域以外の避難指示が解除されているが、現在もほとんどの町民は町外で避難生活を続けている。
- 浪江町社協は、避難中の町民の孤立・孤独を防ぐために生活支援相談員による戸別訪問やサロンなどのコミュニティ支援を行ってきたが、精神疾患を持つ方が病気の影響で周囲と関係を築けずに孤立状態にあり、相談員の訪問も拒絶するケースの対応に苦慮して
【Aさんの事例】
●50代男性●無職
●復興公営住宅に居住
●独居
●家族とは疎遠(両親は他界)
・普段から攻撃的な態度で接しているため周囲から孤立
・迷惑行為が多くストレスで体調を崩す近所の住民もいた
・生活支援相談員に不信感を抱き、訪問する相談員に怒鳴り、玄関の扉を開けてくれないこともあった
・生活支援相談員は毎度怒鳴られることやきつい態度をとられることに苦痛を感じていた
・Aさんから病気について聞けず対応できずにいた
【取り組み】
- 震災前からAさんと関わっている町の保健師に相談した。病気の有無や病名は個人情報であるため提供を受けるのは難しかったが、Aさんが近隣住民に迷惑をかけ孤立も深まっていたことから協議を重ね、情報をもらえることになった。保健師からはAさんが重い精神疾患を持っていることと、訪問時のアドバイスを受けることができた。
≪保健師からのアドバイス≫
・Aさんを大切に思っていること、心配していることを伝える
・Aさんが言いたいことは分かっていると伝える
・相談員はAさんの敵ではないことを伝える - Aさんには「見守り」に重点を置いて訪問することにした。通常の訪問では相手に話をしてもらい困りごとや悩みを聞き取るが、Aさんとは無理に話をしようとせず、「顔を見せてくれるだけで十分」という姿勢で接して、Aさんが話をしたくなるのを待ち続けた。
- 保健師、心のケアセンター、町の福祉担当課の職員とケア会議を行い、情報共有と対応について話し合った。現在のAさんだけでなく、生い立ちや家族との関係性など、Aさんを取り巻く多くの情報を得ることができ、様々な角度からAさんについて考えることができた。同時に、情報管理についても話し合い、訪問時に近所の方からAさんについて聞かれることも多いので、些細なことでも口にしないよう注意した。
- 社協内での話し合いで、Aさんの攻撃的な態度は病気の影響に加え「さみしさの裏返し」であると考えて、辛く当たられても根気強く訪問を続けAさんとの信頼関係を築くことに努めている。現在も訪問時にはAさんの様子を観察し、近所の住民から普段の様子を聞くなど地道に見守りを続けている。
【工夫】
- Aさんを訪問した日は話し合いをして、その日のやりとりを振り返ることにしている。機嫌よく話した話題や強く反応したことを共有し、その理由を分析することで、「こう言ったけれどダメだった」「次はこうしてみよう」と次回の訪問に生かすことができている。
- Aさんを訪問する時は近所の住民の様子にも気を配っている。Aさんに怒鳴られて怯える隣家の高齢者や、Aさんが信頼して昼夜問わず電話を掛けてしまう人など、近所に住んでいるというだけで迷惑を掛けられている人がいるので、相談に乗り接し方をアドバイスすることもある。「困ったときはいつでも連絡してください」と連絡先を置いてきたところ、実際に連絡することはなくても心の支えになっていると喜ばれている。
【効果】
- 訪問を続け数カ月するとAさんは次第に会話をしてくれるようになり、その日にあった出来事や不満に思っていることなど本音も打ち明けてくれるようになった。相談員に怒鳴ってしまった後には「ごめんね」と謝ってくれるようにもなった。現在も周囲からは孤立しているが、相談員に対し徐々に心を開き始めている。
- Aさんへの対応を通じて、相談員には観察する力、分析する力がついた。訪問で得た情報と専門職からの情報やアドバイスをもとに日々話し合ったことで、病気とAさんについての理解が深まり、Aさんの気持ちに寄り添った対応ができるようになった。また、客観性を持ったことで、Aさんの態度に過度に苦痛を感じることがなくなった。
- 保健師や心のケアセンターなど関係機関との信頼が深まった。「何かあったら連絡してね」という保健師の言葉が大きな励みになっている。さらに、保健師がAさんを訪問する度に、相談員が理解者であると説得してくれたことでAさんの警戒心が弱まる後押しとなった。