社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

特定非営利活動法人いわき緊急サポートセンター

2016/12/08
 

日々の幸せは、心と体の健康あってこそ
安心してのびのび子育てを楽しめる場所、
対話と交流、相談の機会を提供しています



「特定非営利活動法人いわき緊急サポートセンター」(以下、「いわき緊サポ」)は、2010年に子育ての不安を共有するママの強い味方として活動を始めました。

東日本大震災時は、3月19日から支援活動に参画。理事長の前澤由美さんが看護師の資格を持っていることから津波沿岸地域の救援、支援物資の配送に留まらず公民館や避難所で健康チェック、入浴サービス、心のケアなどに尽力しました。
今回は、メインの事業「緊急サポート」と屋内遊び場「すくのび広場」について伺いました。


特定非営利活動法人いわき緊急サポーセンター理事長 前澤由美さん
▲特定非営利活動法人いわき緊急サポーセンター理事長 前澤由美さん


子育て中に起きる緊急の困ったを良かったにします

いわき緊サポは、子育ての中で起きる緊急の困ったを良かったにする事業に取り組んでいる団体です。
メインの事業として位置付けている緊急サポートは「子どもの一時預かり」「病児保育」「出産時や前後の援助」「就労自立支援」「人材育成」など多岐にわたります。前身は、2009年に発足した厚生労働省委託事業「こども緊急サポートネットワークふくしま」のいわき支部です。2010年に任意団体「いわき緊急サポートセンター」として独立し、2013年8月に法人格を取得。同年の9月に支援活動拠点「アステール※」を小名浜に開設しました。

メインの緊急サポートについて理事長の前澤由美さんに伺うと「もともとは、国の制度にあるファミリー・サポート・センター事業の『病児・緊急対応』の部分の強化活動です。会員同士の相互援助活動となっていて、有償ボランティアなんです。ファミリー・サポート・センターの一時預かりでは、発病の場合や急な預かりはできないので、困った時は、病気でも障がいを持っていてもわけ隔てなく応援したかったんです。以来、子育て家庭のあらゆる困りごとをサポートしています」と話してくださいました。

利用の仕組みは、シンプルです。サービスを利用したい方は、事前に協力会員と面談し、会員登録をします。サービスを受けたい時は早めに電話で依頼し、依頼内容と日時、登録時に打ち合せしたシミュレーションに沿って支援を受けます。サービスを受けたら報告書にサインし利用料金を支払います。(利用料金は別枠の通り)
※アステールは、ギリシャ語で自ら輝く星「恒星」の意。





特定非営利活動法人いわき緊急サポートセンター ■利用料金■


【年会費】2,000円(保険料など含む・新規入会時のみプラス1,000円)。
【利用料金】平日9時~17時まで(1時間800円)、
朝6時~9時・17時~21時・土日祝日(1時間900円)
21時~翌6時(1時間1,000円)
宿泊21時~5,000円(病気プラス1,000円、依頼宅出張プラス1,000円)
*別途1㎞40円計上で交通費、1回の依頼ごとに通信事務費一律200円が必要。
*兄弟姉妹では、同時預かりが可能である場合のみ2人目半額になることがある。
(体調や安全面で個別の支援が必要な場合はこの限りでない)。
*希望や状況に応じて、家族、施設、関連団体他と協力連携する。
*当団体は、ファミリー・サポート・事業として2014年度4月より「いわき市病児・緊急対応強化事業」を受託している。
◎子どもの預かりサポートをしたい協力会員随時募集中。


どんな悩みも本人が解決できる糸口が必ずあります

いわき緊サポでは、会員登録せずにいつでも誰でもかけられる子育て支援の電話相談(24時間)も行っています。こちらは震災前から継続している事業で相談を受ける時は、住所や名前を聞かずに対応しています。

「今でも忘れられないのが大震災の年の電話相談です。発災から約1カ月間、夜も眠れないほど携帯が鳴り続けました」。

傾聴と共感に徹し続けた前澤さんは、直接会って話したいという相談者の希望と、表情や様子を目にしながら話した方が電話だけではわからない解決の糸口が見つかるかもしれないと思ったことをきっかけに2014年からスタッフと共にサロンを始めました。

以来、24時間の電話相談とアステールを心の居場所と位置づけて、スタッフとママの交流を促す「MAMAサロン」、不安を抱えた人の相談会「気がかりサロン」、男性のための「MANSサロン」を毎月1回ずつ開催しています。

サロンは、電話やメールで予約をすれば会員登録不要です。少人数制にしており、相談者本人が話せる範囲でしか詳細は聞きません。ホームページなどで告知するくらいなので、参加者は毎回1組~3組程度です。誰も来ない時があったとしても、スタッフミーティングの時間にするのでなんの問題もないと言います。それよりも前澤さんは「どんな悩みも本人が解決できる糸口が必ず見つかると信じて向き合います。何よりも会って話ができる場所があることが大事なんです」と話します。

「MAMAサロン」のチラシ。「気がかりサロン」(第3木曜日10:00~正午)はアステールで、「MANSサロン」は不定期に「すくのび広場」で、「MAMAサロン」はいわき市谷川瀬にある「いきいきはうすキッズルーム」(第4火曜日10:00~正午)で開催しています
▲「MAMAサロン」のチラシ。「気がかりサロン」(第3木曜日10:00~正午)はアステールで、「MANSサロン」は不定期に「すくのび広場」で、「MAMAサロン」はいわき市谷川瀬にある「いきいきはうすキッズルーム」(第4火曜日10:00~正午)で開催しています


毎月のべ4,000人がのびのび楽しく過ごしていく“すくのび広場”

広場は、東日本大震災後、イトーヨーカドー平店から4階の特設催事場を避難所として無償で提供されたことがきっかけで始まりました。
2011年9月~2014年12月まで “いわきNPOセンター”が「とことん広場」という名称で運営し、2013年から相談員としてかかわっていた前澤さんが引き継ぎました。現在の「すくのび広場」は、前澤さんが2014年に立ち上げた任意団体“すくのびくらぶ”が運営する屋内遊び場です。
2015年からは未就学児と保護者だけでなく、年齢制限なく多世代の地域住民の心の居場所と成長の場として広く開放されています。その他に専門性の追求と人材育成をめざして、保育士資格取得の勉強会を毎月1回いわき市総合保健福祉センターで開催しています。

広場の運営で工夫したことの1つに苦情解決があります。広場を開設した頃のいわき市内には、軋轢やぶつけどころのない不安などがあり、それらがクレームにつながっていたそうです。広場の相談員と並行して緊急サポートの電話相談も受けていた前澤さんは、そうなってしまう状況がよくわかりました。そこで苦情は、すべて代表の前澤さんが受けることにしたそうです。

当時の気持ちを前澤さんは「丁寧に時間をかけて利用者さんと分かり合いたいと思いました」と振り返ります。「お陰様で現在は、周りも落ち着いてきたこともあり苦情はなく、笑顔の利用者さんが増えました!」。

2つ目の工夫は、ママの心に届ける病気予防です。健康や食育の推進をしたり、ミストで除菌する加湿器を使うなどして集団感染させない広場運営を心がけています。

3つ目の工夫は、今年から始めた特典付きスタンプカードです。「一番の目的はカードの裏に記した『約束』を読んでいただくことです。そこには、アレルギーで食べられない子どもたちのために広場は飲食禁止。感染予防のためにオムツ交換はトイレを使用するなど、みんなで気持ちよく広場を利用するための注意事項が書かれています。理由が分かれば不満にはなりません」。

誰も悪くしない解決法を考えながら、学びにつながるイベントを増やした結果、毎月のべ4,000人が利用してくれる楽しい広場になりました。



▲“すくのび広場”12月のカレンダー。利用時間は10:00~17:00。
毎月1回 不定期で休み(スタッフ研修会のため)があります



▲“すくのび広場”利用者スタンプカード


「緊急サポート」と「すくのび広場」は両輪

活動を始めてから丸6年。常に第一線で問題解決に奔走してきた前澤さんに「緊急サポート」と「すくのび広場」の関係について尋ねると「両輪です」と答えてくださいました。緊急サポートやサロンの相談から見えてくる悩みや困りごとを予防する方法を広場で提供できれば未然に防げるので両方必要なのだと言います。

例えば、子どもの病気も症状が出た時点で相談してもらえれば、対応や対策を一緒に考え熱を測って経過をみるとか、靴下や腹巻で保温したり、温かい飲み物やスープなどで水分補給をするなど、観察や手当ての仕方を伝えられます。ポイントを押さえてきちんと手当てすれば回復も早く、経験を予測や予防に生かせば風邪もひかなくなると言います。
「インターネットを使えばいろいろな情報が得られる時代ですが、逆に情報が氾濫し過ぎて情報が不安材料になっているように思えてなりません。だからこそ悩みや経験を共有する場所や実際に手を差し伸べてくれる人が必要なのだと思います」
と前澤さん。

幸せは、心と体の健康あってこそ。しかし、核家族化と共働き、高齢化が進み地域支援も減少してしまった今の子育ては、なかなか大変な状況です。
「ママたちも心に余裕がもてなくなってしまうんですよね。確かに親って大変ですがいいこともあります。そういう幸せを実感できるような支援が必要ですよね」。
これからも地域に根差し、健康の大切さと子育ての幸せを伝えながら皆さんと一緒に成長して来たいと話す前澤さんの目は、慈愛に満ちていました。


悩みごと、困りごと解決のヒント

生活支援相談員の皆さんのために悩みごと、困りごと解決のヒントを前澤さんにお聞きしました。ぜひ参考になさってください。

●お話を聞くばかりで何もしてあげられないと悩んでいる方に対しては、「この仕事を続けてきて、どんなうれしいことがありましたか?」と尋ねるようにしています。「〇〇をしたところ、喜んでもらえました」と話してくださったら「ほかには?」「ほかには?」と、どんどん聞きます。すると「私ってそのためにがんばってきたんだ」ということが思い出されてきます。そこが大事です。

●高齢者と若い世代の悩みでは、お互いのコミュニケーション不足が困りごとを大きくしている場合があります。可能ならお子さんの説明をした上で、おばあちゃんのところで一時預かりのお世話をします。子どもを囲んで一緒に関わり、おばあちゃんとママとの距離を近づけていくようにします。私たちの介入なしで子どもを預けたり預かったりできるようになれば、おばあちゃんも孤立しないで済みますし、支援も最小限で済みます。家族同士できることが増えていくって素敵なことですよね。

●誰につないだらいいか悩ましい時は、まず家族につなぎます。負担にならない状況などしっかりコーディネートをしてから自分も中に入って寄り添います。家族と一緒になって考え、できることを探して応援するのが本当の“つなぐ”なんじゃないかと私は思います。

●悩みに悩むのではなく、どれがいいか選ぶのに悩んでほしいので、解決につながる選択肢をなるべくたくさん届けるようにしています。解決したイメージをもって、どれを選ぶかで悩んでほしいと思います。

●旅行の行き先や何を食べるかなど、みんなで何かを決める時は、強い意見に左右されないように1人2つ以上の意見を出すことに集中します。考え中の人は飛ばして2~3聞いて、10個以上出たら多数決を取り、ベスト3に絞り込みます。1人2回の挙手にして、多数決も1回で終わらせないで2回取ると、強い口調の人の意見ではなく、本当にみんなが望む意見に絞り込まれていきます。何度も聞かれ良く考えるうちに一体感がうまれます。

●クラブ活動や集会なども「いずれは皆さんにやってもらいます」ということが先に分かったら誰もやらないと思います。私だったら「最後まで私も付き合います」と伝え、場合によって「一緒に参加する時間が取れなかったので、ここだけ皆さんにやっていただき、後でお話を聞き、私も手伝いますね」など、遅刻や早退してもつながりを断たないようにして、皆さんを信じて待ちます。3回のうち1回は不都合がないかを個別に確認します。
要望があれば決められた日以外にも話しを伺い、ゆっくり少しずつ移譲していきます。


■連絡先■

特定非営利活動法人いわき緊急サポートセンター

TEL080-6055-1099
E-mail iwakikinsapo@gmail.com
http://iwakikinsapo.jimdo.com/
支援拠点 〒971-8111 いわき市小名浜大原字丁新地206‐2「アステール」


■取材を終えて■

年子の息子さんの子育てと祖父母の介護が同時進行だった大変な時期、親戚や近所の方に話を聞いてもらい励まされたことで、辛かったことが感動や感激に変わったという話をしてくださった前澤さん。
「誰かが助けてくれるという安心感、一緒に寄り添ってくれる人の存在が意欲や忍耐力になる。それが希望や自信の種になり、感謝の気持ちに気づいたとき心に余裕が生まれる」と身に染みて感じたそうです。自分を育ててくれた地域へのお礼と恩返しとして「今度は私が」と決意したことが活動の原動力になっているとのこと。

今後については、こうした助け合いの仕組みと支援者研修会や保育士資格取得の勉強会などの人材育成の流れを、ぜひ次世代に残していきたいと話していました。前澤さんがそうだったように一緒に寄り添ってくれる人の存在が人を動かす力になり、受け継がれていくように感じました。
(井来子)


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