社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

傾聴ボランティアさくら

2016/04/15
 

傾聴のスタイルは1対1、複数対複数など様々
皆さん、語るほどに元気になっていかれます

傾聴ボランティアさくらは、県北地域を中心に老人福祉施設や仮設住宅、災害公営住宅などに出向いて傾聴を行っている団体です。

悩みや寂しさを抱えて暮らす皆さんの「聴いてもらいたい」という気持ちに寄り添い続けたいと精力的に活動されています。

桜の聖母生涯学習センター内にある事務局を訪ね、活動の経緯と避難者(被災者)支援など、今後力を入れていきたいことを伺いました。


話をお聴きして問題を解決するのではなく、
その方の心に寄り添うのが“傾聴”です

桜の聖母生涯学習センターを拠点に活動する傾聴ボランティアさくら(以下「さくら」)は、平成26年4月に設立されました。きっかけは、同センターで開講している「傾聴ボランティア養成講座」でした。

立ち上げまでの経緯を代表の柴田香代子さんに伺うと、平成22年まで遡って話してくださいました。「『無縁社会』という言葉をご記憶でしょうか。そういう言葉が聞かれはじめた年でした。傾聴こそ今の社会に必要なことだと考えて『傾聴ボランティア養成講座』を開講しました。翌年が大震災でした。

平成24年、復興事業の一つとして『傾聴ボランティア養成講座』(第1期)を開講しました。すると定員の3倍以上、90名の方から申し込みがありました。大勢の方が『社会のために何かしたい』『支え合いたい』と思っていることが分かりました」。

講座が終わると1期生から「ボランティアをしたい」という声があがりました。同じタイミングで、社会福祉施設から傾聴ボランティアの要請が舞い込みました。そこでボランティア活動と人材育成のための養成講座を両輪に活動を続け、3年前に正式に「さくら」を立ち上げました。「お話をお聴きして問題を解決するのではなく、その方の心に寄り添うのが傾聴です。

人間は、話すことで心が解放され、解決する力が生まれてくると私たちは確信しています」と柴田さん。平成28年現在「さくら」は、1期から5期の受講生の希望者70名が登録し活動しています。



最近依頼が増えて10カ所から14カ所に
懐かしい歌から始まる“傾聴”もあります

「さくら」の活動範囲は、主に県北地域です。シフトを組み福島市内のグループホームや特別養護老人ホーム、通所リハビリテーション、仮設住宅や相馬市内の災害公営住宅などを定期的に訪問しています。最近、依頼が増えこれまでの10カ所から14カ所に広がりました。

傾聴の時間は、約1時間。訪問は、「さくら」のメンバーのみの場合と、カトリック野田町教会やカトリック松木町教会「愛の支援グループ」の皆さんと出かけることもあります。傾聴のスタイルは、1対1の場合もあれば、複数対複数など様々。福祉施設やグループホームなどでは、お話をする前に歌が好きな利用者のリクエストに応えてみんなで歌うこともあります。陽気な歌声につられて他の利用者の方もお部屋から出て来られ大合唱になることも。ひとしきり盛りあがった後、「どうしてこの歌がお好きなのですか?」とか、歌詞の一部を話題にして「〇〇さんも、そんな経験おありですか?」など尋ねると、そこから子ども時代の思い出話やお嫁に行った頃のお話など少しずつ言葉が出てきて、語るほどに元気になっていかれるのだそう。

「傾聴は、“受容”と“共感”。そして、自分が自分でいられるように個人の成長を援助する“自己一致”が基本です。認知症の高齢者に『あんたたちが来てくれるから、あれやこれやしゃべれるようになった』と、言われたときはうれしかったですね」

と、事務局長の熱海紀子さん。



高齢者福祉施設で行っている傾聴活動(写真提供:傾聴ボランティアさくら)


高齢者福祉施設で行っている傾聴活動(写真提供:傾聴ボランティアさくら)

▲高齢者福祉施設で行っている傾聴活動(写真提供:傾聴ボランティアさくら)



地元の社会福祉協議会や関係機関と連携しながら
一人でも多くの方に“傾聴”を届けたい

相馬市内の災害公営住宅は、カトリック野田町教会のリーダーが相馬市社協に連絡をして日時を決めて訪ねています。頻度は、冬期間を除く3月から翌年11月までほぼ毎月です。共有スペースで行うハンドトリートメントの前後に入居されている方々のお話を伺っています。「入居者同士の横の関係でプライベートなことを話すというのはなかなか難しいですよね。そういう時にボランティアが訪ねて行くと、ポロッポロッと話ができます。話すことで生きる力も出て来ます」。

福島市内の浪江町宮代仮設住宅の訪問は、カトリック松木町教会「愛の支援グループ」を通じて始まりました。「最初に『愛の支援グループ』の皆さんが、どこに支援に行けばいいか行政に訊ねたのです。そこで仮設住宅と繋がり、私たちもご一緒することになりました」。以来、月1回から2回、お誕生会のほかに「餅つき」や「雛祭り」など季節の行事をテーマにサロンを開き、その中で傾聴活動を行っています。「毎回楽しみにしてくださっていて訪問すると皆さん満面の笑み。帰る時間になると名残惜しそうに『もう帰るの?』『またこらんしょない』とおっしゃいます」。

最近は、自宅を再建なさったり、復興公営住宅や災害公営住宅に引っ越していかれる方が増えました。うれしい反面、仮設住宅で築いたコミュニティが途切れてしまうのが残念でならないそうです。場所によっては、引っ越していかれた方がイベントの時に仮設に遊びに来られるところもあります。「仮設で暮らしている方々は、とても喜ぶのね。私たちも『またお会いできましたね』とごあいさつしたりして。残っておられる方は、ご高齢の方が多いので、これからどう支えていくか。そこが課題です。

私たちは、支える方法の一つに『傾聴』があると考えています。これまでを振り返ってみますと、状況は変わらなくても、話しを聴いてもらうことで、その状況を受け入れていくと言うか…。聴いてもらうことで何か自分の中で整理がつく。そういうことができるのが傾聴なのかなと感じています。ぜひ、地元の社会福祉協議会や関係機関の皆さんと繋がりたい。そして、一緒に被災者の皆さんの支援をと願っています」。




社会のために何かしたいと思って始めた
傾聴活動で“自分が変えられた”

また、「さくら」では、活動を続ける中で会員が抱える疑問点や困難を解決するべく1カ月に2回、振り返りとスキルアップの時間「集い」を設けています。ある日の振り返りでは、「社会のために何かしたいと思って始めた傾聴活動によって“自分が変えられた”という気づきが傾聴をさらに深いものにしてくれている」という感想が出たそうです。

また「集い」では、お話のきっかけづくりに役立てたいと「傾聴さくら手芸部」を立ち上げ折り紙やお手玉づくり、歌、手品などを教え合ったり、緊急救命にも瞬時に対応できるよう「AED(自動体外式除細動器)講習会」なども行っています。「認知症サポーター養成講座」や「緩和ケア及び終末期医療についての講演会」、「傾聴を深める養成講座」など、傾聴を支えるアフターケアコースも随時開講しています。特に「傾聴に年齢は不問。話を聴く私も話をされる方も、どちらも価値のある人間。人は、互いに成長し合いながら生きる使命を持っている」という“人間観”をテーマにした講座は、受講者の心の拠り所となって実践を支えています。

平成27年11月には、これまでの実践報告と次の高みを目指すためのシンポジウム「明日に向かっての傾聴活動」も開催しました。当日のパネリストは、傾聴ボランティア養成講座の講師を務めている岡安詔子氏、“あいづ小さな風の会※”代表の那知上蓉子氏、“認知症高齢施設グループホームもとうち”の管理者藤枝朋子氏、“傾聴ボランティアさくら”の会員氏家重子氏の4名でした。基調講演もなさった岡安氏は、シンポジウムのまとめとして「絶望、孤独感、喪失感で心を閉ざしてしまった方が心を開くきっかけは、傾聴からもたらされることも。それにはとても時間がかかることもありますが、ご本人が自己を肯定できるよう寄り添い続けることが大切です」と話されました。

※『あいづ小さな風の会』 会津若松市社会福祉協議会と桜の聖母生涯学習センターで開催した「傾聴ボランティア養成講座」とアフターケアコースを受講された方々が加わった電話相談の窓口。
開設日:月・木・金10:00~12:00 13:00~15:00
電話番号:0242-27-5455



平成27年11月14日に開催された「傾聴ボランティア シンポジウム」。岡安詔子氏の基調講演。 岡安氏が資料として用いた米国の臨床心理学者カール・ロジャースの「傾聴の意味と意義」には、聴き手が受容的に傾聴していることに気づくにつれ、少しずつ自分自身に耳を傾けるようになっていく。そして、自分を傾聴することを学習すると、自分自身に対してより受容的になり、やがてありのままの自分を受け入れて行くようになり、より自分自身と一致する方向へと向かうようになるとありました

▲平成27年11月14日に開催された「傾聴ボランティア シンポジウム」。岡安詔子氏の基調講演。
岡安氏が資料として用いた米国の臨床心理学者カール・ロジャースの「傾聴の意味と意義」には、聴き手が受容的に傾聴していることに気づくにつれ、少しずつ自分自身に耳を傾けるようになっていく。
そして、自分を傾聴することを学習すると、自分自身に対してより受容的になり、やがてありのままの自分を受け入れて行くようになり、より自分自身と一致する方向へと向かうようになるとありました。








パネルディスカッション


パネルディスカッション


パネルディスカッション

▲パネルディスカッション






傾聴ボランティア シンポジウムのチラシ


▲傾聴ボランティア シンポジウムのチラシ




希望を持って生きられる社会にしたい
“傾聴”の先進地視察。本宮市や東京都足立区へ

常にスキルアップを心がけている「さくら」では、将来検討委員会が企画する視察研修も行っています。平成28年3月には、先進地視察として本宮市の“傾聴ボランティアグループすまいる”と、東京都足立区主催、孤立ゼロプロジェクト“あだち絆つくり”の研修会に参加しました。事務局長の熱海さんは「みなさん素晴らしい活動をなさっておいでて、とてもよい刺激をいただきました」と感想を話してくださいました。

「“すまいる”の皆さんは、本宮市社会福祉協議会と太いパイプがあり有機的に連携しながら活動していました。私たちも大震災から6年目に入った地域社会を、ぜひ社会資源と言われる地元の社会福祉協議会や関係団体の皆さん連携しながら、支え合い希望を持って生きられる社会にしていきたいと思いました」。足立区主催の研修会では、孤立している人をまちぐるみで無くして行きましょうという見守りの活動をいくつか見学しました。「一人暮らしの高齢者のお宅を訪問したり、支援のための企画を考える“ひまわり隊”の活動は先駆的でした。課題は、男性の高齢者に多い引きこもり、孤立、孤独をどう支援していくか。女性不可にして“男性のみ”という限定企画にすると参加が増えると聞きました。なるほどと思いましたね」。




「傾聴ボランティアさくら」先進地視察委員会による先進地訪問の報告会(平成28年3月10日)
「傾聴ボランティアさくら」先進地視察委員会による先進地訪問の報告会(平成28年3月10日)
▲「傾聴ボランティアさくら」先進地視察委員会による先進地訪問の報告会(平成28年3月10日)





平成28年度「傾聴ボランティア養成講座」
受講生募集中!

桜の聖母生涯学習センターでは、平成28年度も4月16日から「傾聴ボランティア養成講座」開講します。聴くことで社会に貢献できる講座は、年齢性別不問。どなたでも受講できます。養成講座も「傾聴ボランティアさくら」のボランティアの要請依頼の問い合わせは、「さくら」または、同センターにお願します。http://www.ssg.ac.jp/s-center/

また、会津でも同年4月17日から「傾聴ボランティア養成講座」を開催します。こちらは、会津若松市社会福祉協議会、桜の聖母生涯学習センター、あいづ小さな風の会の主催です。関心のある方は、ぜひ連絡してください。awshakyo.or.jp/pdf/info_076.pdf


■連絡先■

傾聴ボランティアさくら
〒960-8585 福島市花園町3-6 桜の聖母生涯学習センター内
TEL024-535-2531 080-8211-6811
FAX024-534-4571
http://www.ssg.ac.jp


●取材を終えて●

事務局長の熱海先生のお話を伺いながら、最近、自分のことを自分以外の誰かに話しているだろうかと、ふと思いました。
息子、大事な女友達、NPO法人の仲間…忘れていただけで結構話していました。Mailも便利ですが対話にはかないませんね。「さくら」の活動を伺っていて感じたのは、思ったことを安心して話しながら、受容と共感を得て肯定されるうれしさです。傾聴には“自己一致”、つまり自分が自分でいられるよう個人の成長を支援する力があるのですね。

聞くところによると、いわき市には「いわき傾聴ボランティアみみ」、白河市には「傾聴ボランティアグループ 白河みみずく」「白河市傾聴ボランティアグループ いろりの会」など、県内でも様々な傾聴ボランティアのグループが活動されているようです。生活支援相談員やコミュニティ交流員の皆さん、多くの社会資源と傾聴ボランティアが繋がって大震災から6年目を生きる力になっていきますように。

(井来子)


この記事が気に入ったら
いいね!しよう