聞き取り調査で現状把握、深いニーズに寄り添い
日々の支援につなげていきたい
震災から4年半。大熊町は、今も全町民約1万1,000人が全国に分散避難を強いられています。長期化する町民の避難生活を支える大熊町社会福祉協議会(以下、大熊町社協)会津若松出張所を訪ねて生活支援相談員(以下、相談員)の活動と今後の課題について伺いました。
長期化する避難生活を支える生活支援相談員
現在、大熊町では3,674世帯が会津若松市やいわき市など県内に、1,265世帯が県外に避難しています(平成27年9月1日現在・住民基本台帳に基づくデータ)。応急仮設住宅や民間借り上げ住宅で暮らしている方々の見守りや孤立防止のために、大熊町社協では、会津若松出張所といわき連絡所に合わせて21名の生活支援相談員(以下、相談員)を配置して全世帯訪問を行っています。さらに町と契約し大熊町社協中通り連絡所を開設。中通り地域に避難されている皆さんを支援する避難者支援相談員を6名配置して、こちらも全世帯を訪問しています。
「両者の活動に違いはありません。どちらも避難が長期化するなかで安心して暮らせるように寄り添い、様々な福祉サービスや生活支援によって自立に向けて支える大切な役割を担っています」と、大熊町社協の事務局長根本豊稔さん。
今年度、県は仮設住宅などから復興公営住宅へと住み替える方々が多くなることから支援体制を強化すべく相談員を増員しました。組織も一部変更になり相談員10名に対し、主任生活支援相談員が1名配置されました。大熊町社協でも会津といわき、中通り連絡所に主任生活相談員を配置し、相談員が効果的・効率的な活動ができる体制を整えました。
相談員の活動については、安否確認、見守り、傾聴などこれまで通りですが、新たに放射線を含めた健康不安に対する相談活動が加わったことから、相談員は、放射線リスクコミュニケーション研修で得た情報を伝える役目も担うようになりました。
ネットワーク会議。頻繁に議題に上がるのは復興公営住宅のカビ問題
多様な人、団体、福祉サービスをつなぐことで生まれる厚みのある連携を大切にしている大熊町社協は、情報を共有し、調整や問題解決の方法を話し合う場として月1回、町で開催しているネットワーク会議に参加しています。「メンバーは、私たち相談員と地域包括支援センター、保健センター、生活支援課、心のケアセンター、会津若松市社会福祉協議会、今年度から復興公営住宅と地域をつなぐコミュニティ交流員も参加するようになったので、輪が広がりました」と喜ぶのは、鴻巣沙織さん(相談員)です。
目下、一番悩んでいることは、復興公営住宅のカビだそうです。
「鉄筋の新築で気密性が高いこともあって換気がうまくいかないようで…。健康面からもよくないので『どう対処するか?』という話が会議の度に議題に上がります」。
ほかに2カ月に1度開催される会津方部連絡会もあり、こちらの会では楢葉町、富岡町、南相馬市、双葉町、浪江町、会津若松市、会津美里町の各社会福祉協議会、福島県社会福祉協議会、心のケアセンター、コミュニティ交流員の皆さんと情報交換を行っています。
「緊急連絡カード」と「世帯別確認シート」の調査を開始します
様々な連携の中で相談員が今、最も密に連携していこうとしているのが大熊町の民生委員・児童委員(以下、民生委員)です。中通り連絡所に続き、会津若松出張所、いわき連絡所でも相談員と民生委員の同行訪問が始まります。10月から聞き取りを始める「緊急連絡カード」と「世帯別確認シート」は、今年度特に力を入れている取り組みで、民生委員等の協力を得ながら住民の現状とニーズを把握し、健やかな生活に反映させていこうというものです。
「緊急連絡カード」・「世帯別確認シート」
■緊急連絡カード■
仮設住宅、民間借り上げ住宅、復興公営住宅で暮らす方も含め緊急時に速やかに対応できることと関係機関との情報共有を図ることを目的に作成する。了承を得た方に相談員が訪問して聞き取りをし作成していく予定。
■世帯別確認シート■
今後の生活再建を促進するために現状把握と見通し、生活の現状を聞き取りし、生活再建・自立に向けた関係機関からの的確な情報を提供するなど、より積極的な支援ができるようにしていく。承諾を得た世帯のみ聞き取り調査をして作成する。
■緊急連絡カード■
仮設住宅、民間借り上げ住宅、復興公営住宅で暮らす方も含め緊急時に速やかに対応できることと関係機関との情報共有を図ることを目的に作成する。了承を得た方に相談員が訪問して聞き取りをし作成していく予定。
■世帯別確認シート■
今後の生活再建を促進するために現状把握と見通し、生活の現状を聞き取りし、生活再建・自立に向けた関係機関からの的確な情報を提供するなど、より積極的な支援ができるようにしていく。承諾を得た世帯のみ聞き取り調査をして作成する。
生活再建相談を確実に、ニーズの掘り起こしも担う聞き取り調査
復興公営住宅へ移行される方が増えている今、仮設住宅に残り暮らしている方の多くは、一人暮らしの高齢者、高齢者夫婦、障がいを持っている方になってきています。仮設によっては1棟に高齢者が1世帯という状況もあり、そうなると防犯もままならなくなってきます。備えあれば憂いなし。一人暮らしの高齢者、高齢者夫婦、障がい者、日中一人暮らしの高齢者がいる世帯の緊急時対応の仕組みを早急に整える必要があると、緊急連絡カードを作成することになりました。
「このカード作成については民生児童委員の活動の一環として行っておりましたが、現在避難しているため見守り活動する地域がありません。そこで相談員の活動に取り組むことにしました」。
一方、「世帯別確認シート」は、移行の時期に皆さんの現状把握と今後の見通し、生活の現状などをお聞きして、生活再建・自立に向けた関係方面からの的確な情報の提供など、より適切な支援につないでいくために行う聞き取り調査で、承諾を得た世帯を訪ねます。
「避難生活も4年半が過ぎました。時間の経過と共に皆さんが必要としていることも変わります。当初は『大熊町に帰れる』『帰る』という気持ちが強かったのですが、現在は『帰る』『帰れないから住宅を再建する』と両極端に分かれています。再建を考えておられる方の心配も尽きません。最も多いのが新しい土地でのコミュニティの形成です。復興住宅に入居された独居高齢者の見守りもあります」。
「緊急連絡カード」と「世帯別確認シート」をもとに、よりしなやかな支援をと願う相談員の皆さん。
その活動を見守る大熊町社協会津若松出張所、福祉係主任主査の遠藤仁美さんは、
「今後の見通しについて『わからない』と答える方もいらっしゃると思います。それも答えだと思っています」と話します。
「丁寧な聞き取りで、これまで見えなかったニーズなども見えるようになることを願っています」。
質問のなかには踏み込んだ問もありますが、どれもが、その方の幸せと命を守ることにつながるカードなので、ぜひ、ご協力いただきたいと願っているそうです。
サロンと日帰り交流事業。アンケート調査で改善点を探りたい
住民の皆さんが自ら「声を出すこと」「つながりを持つこと」が、孤立化や孤独死を防ぐ第一歩と考える大熊町社協では、サロン活動も大切にしています。仮設住宅のサロンは、自治会で、借り上げ住宅の皆さん向けのサロンは、大熊町社協が開催しています。いわき地区では、住民の皆さんの声に応える形で、サロンの開催が増えてきているそうです。「中通り地区については、避難先の郡山市社協や二本松市社協、大玉村社協にお願いし、大熊町社協の情報誌で開催日時をお知らせしています」とは、前出の鴻巣さん。
復興公営住宅への移行の時期で、サロンに参加される方が減ってきてはいるものの「ストレスの発散になる」「いろんな方と情報交換ができるので楽しい」など、毎回うれしい声が届きます。その一方で「参加者が固定化してしまっている」「男性の参加が少ない」など、課題も。
「皆さんの気持ちを反映して改善していけるよう、今年は1年に1度、大熊町民が集う『ふるさとまつり』で、サロンと人気が高い日帰り交流事業に対するアンケート調査を行う予定です。結果を踏まえて開催場所や時間の変更など考えていきたいと思っています」。サロンの今後については、仮設住宅や借り上げ住宅で暮らす人がいる限り継続してきたいとのこと。
高齢者の不安軽減と生活再建、自立のための個別支援を強化に注力
今後の課題は、行き先が決まらず孤立感や孤独感を抱える高齢者の不安軽減と生活再建、自立のための個別支援を強化していくことに尽きると鴻巣さん。「個別支援の強化という部分では、復興公営住宅についても同じです」とも。
「仮設住宅では、一歩外に出ればお知り合いがいらっしゃいましたが、移行先の復興公営住宅では、同じ大熊町民というだけで周りはほとんど知らない人ばかり。話をしてもあいさつ程度で終わってしまうんですね。そこをなんとか支えたくて、いつもスタッフ間で知恵を絞っています」。
これからも相談員のコーディネーション力を駆使しながら、様々な団体と連携を図り、見守りと地域支援の層を厚くしていきたいと考えているそうです。
■連絡先■
社会福祉法人 大熊町社会福祉協議会◎会津若松出張所
〒965-0873 会津若松市追手町2-41
フリーダイヤル 0120-29-5760 TEL0242-29-5760 FAX0242-29-5761
◎いわき連絡所
〒970-1144 いわき市好間工業団地1-43
TEL0246-38-8920 FAX0246-38-8921
◎中通り連絡所
〒964-0915 二本松市金色421-10 大熊町役場中通り連絡事務所2階
TEL0243-24-1338 FAX0243-24-1339
●取材を終えて●
生活支援相談員としてもっと身に付けたいスキルは?と尋ねると、少し考えて「対話力です」と答えてくださった鴻巣さん。日々の会話の中で、少しでも前向きに考えて行けるような、そういう“陽”の力に転化していくような言葉かけができたら…と、いつも心を砕いているとおっしゃっていました。
取材に同行した福島県社会福祉協議会の総括生活支援員のアドバイス「余談のススメ」もヒントになりそうですね。余談から生まれる小さな笑いが鴻巣さんを助けてくれるような気がします。願うことは叶うそうです。ぜひ「余談のススメ」試してみてください。
(井来子)