県立医大 心のケアチームの活動を
“なごみ”が継承
「相馬広域こころのケアセンターなごみ」(以下、なごみ)は、2012(平成24)年1月に誕生しました。激甚被災地、相双地域の精神科医療保健システムを回復し復興、新生させていこうと2011(平成23)年11月に設立された「NPO法人相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会」がなごみをつくり、「福島県立医科大学 心のケアチーム」(以下、心のケアチーム)の活動を引き継ぎました。以来、仮設住宅や借り上げ住宅で生活をされている被災者、地域で暮らす精神疾患当事者・家族、地域住民など、相双地域の多くの人々のこころの健康を守り、増進していくための事業を献身的に続けてきました。
震災直後、心のケアチームは臨時外来や避難所訪問を行っていました。やがて仮設住宅の巡回や母子の放射能不安のケア、仮設住宅や集会所でのサロン活動に移行していきました。「そうした活動を継続しながら相双地域のメンタルヘルスを守っていくために生まれたのが“なごみ”です」と話すのは、センター長の米倉一磨さん(看護師)です。米倉さんは、ボランティアとして心のケアチームにも参加されていました。
▲ 相馬広域こころのケアセンターなごみ センター長 米倉一磨さん |
ストレスからうつ状態になったり
認知症の方が増えました
相馬市は、もともと精神科の病院がない地域でした。震災と原発事故で近隣の医療機関も閉鎖されてしまったことから相馬市内の公立病院の一角を借りて臨時の精神科外来が始まりました。並行して心のケアチームの活動も継続させていきたいということでNPO法人が設立され、なごみがその活動を引き継ぎました。「震災というのは、もともと地域が抱えていた子どもや高齢者、障がい者の問題が一気にパンドラの箱を開けたような状態にするんですね。問題の顕在化です。一方で震災をきっかけに出てくる新たな問題もあります。先の見えないストレスなどからうつ状態になったり、認知症の方も増えました。戸別訪問とサロン活動をきっかけに、みなさんが抱えている不安や困りごとを解決につないでいくのが私たちの仕事です。辛かったのは震災後半年が過ぎた頃です。支援者も含め当初十数人いた心のケアチームのメンバーが、激減して数人になってしまいったときです。スタッフが増えるまでは本当に厳しかったですね」。
現在なごみは、2014(平成26)年4月に訪問看護ステーションなごみ、2015(平成27)年4月に地域活動支援センターなごみCLUB、相談支援事業所なごみCLUBを立ち上げサポートの選択肢を増やしながら地域の精神障がい者の支援を行っています。
▲ 相馬広域こころのケアセンターなごみ(写真提供:なごみ) |
事業その1 「仮設住宅での活動」
サロン活動でメンタルヘルスをサポート
困難を一つ一つ乗り越えながら4年目に入ったなごみには、4つの柱があります。その1つが新地町、相馬市、南相馬市内の仮設住宅でのサロン活動です。なごみの臨床心理士や保健師、精神保健福祉士、ワーカー、保育士が専門職を活かしながらみんなで楽しいひとときを過ごすサロンのほか、健康に関する教室などを開催しながら交流を深め不安やストレスの解消に役立つサポートを続けています。「決まった時間に決まったところでお話しができる場所があるというのは、とてもいいことだと思います。サロンで血圧測定を何回か続けるうちに少しずつご自身やご家族のことをお話しされるようになって、そこから相談や治療につながることもたくさんありました。激甚被災地のメンタルヘルスを守る『クリニックなごみ』ができたこともあると思いますが、社協さんと連携しながら続けてきたサロン活動は、気軽に相談できる場所として役立っていますしメンタルヘルスの予防という部分でも貢献していると思います」。
▲ 仮設住宅でのサロン活動。相馬市内の仮設住宅で週1回「ちょっとここで一息の会」、新地町の仮設住宅で月1回「いつもここで一休みの会」、土曜日には相馬市の保健センターでサロン活動を行っています。血圧測定やお茶を飲むことから始まり、徐々に震災後の不安や健康のことなどを話すようになり、やがて集まったみんなで年中行事を楽しむなど時間の経過とともにサロンの中身も変わってきました(写真提供:なごみ) |
事業その2「訪問活動」
きめ細やかな訪問活動で日常生活を支援
事業の2つ目が訪問活動です。当初は、全戸訪問でしたが、2014(平成26)年から相双地区の社会福祉協議会(以下、相馬市社協)や保健センターと連携しながら必要な方のところに絞って伺うようになりました。また、同年4月から「訪問看護ステーション なごみ」(①訪問看護/有料、②震災対応型アウトリーチ事業)が加わりこれまでの訪問体制を厚くしています。ひと口に訪問と言いますが米倉さんたちは、3つに分けてきめ細やかな訪問をしています。その1つが、住民の皆さんのメンタルヘルスの部分です。これまで診察を受けていなかった方やなんらかの事情で治療を中断された方に再度、診察や治療ができるような支援も行っています。「まず、その方の良いところに着目して治療に結びつける前のケアで普通の生活ができるようになった事例もあります」。次が長期入院した後の退院や入退院を繰り返す方を対象に、社会復帰を支援するための訪問活動です。3つ目が災害によって精神症状が出現した方へのフォローです。「訪問するなかで虐待やDV、うつ、不眠など、震災をきっかけにその方の弱い部分が表出してきていることが明らかになってきました。高齢の方は、身体的な部分に問題はなくても徘徊などを伴う認知症の方が増えました。たいていお薬を飲むと良くなるのですが、飲んでいただけるようになるまでが大変なんです。『もう来るな』と言われたこともあります。お薬にパッチ剤があるのですが、ご家族と協力してご本人にパッチ剤を貼っていただき2週間から3週間くらい経つと持ちが穏やかになってきます。関係性ができると服薬管理も上手くいくようになるので一緒に買い物に出かけるなどして信頼関係を作り、お薬をパッチ剤から錠剤に替えるなどして普通に生活できるようになった好例もあります」。なかには、会話は普通にできるのだけれど、なぜかゴミを集めて山のようにしてしまう方がいて社協の職員と一緒に部屋を片づけながらその方と信頼関係を築き治療に導いたこともあったそうです。
事業その3「支援者支援」
事業その4「関係者とのミーティング・研修会」
3つ目の事業が支援者支援「職員の心の相談・健診」です。被災者を支援する公共職員の方々の心の相談や健診を実施しています。「なごみの臨床心理士や外部の精神科医にお願いしてのカウンセリングですね。心が疲れて立ち止まってしまった人の次の一歩を見守りながら私たちが後押しします。これまでに高校教員、消防署員、特別養護老人ホーム職員の方々の相談・健診を実施しました」。4つ目が「精神科医療保健福祉関係者へのアプローチ」です。住民の方々への支援に加え、活動の中心となる精神科医療保健福祉関係の皆さんと定期的なミーティングのほか研修会や講演会も企画して開催しています。「研修の項目としては、アルコール、高齢者、精神疾患関係などがあって支援者向け、一般市民向けの両方を用意しています」“なごみ”が地域のメンタルヘルス相談の
垣根を低くしたように思います
なごみのこれまでの成果を米倉さんに伺うと「差し出がましく聞こえるかもしれませんが、震災前からなかなか行き届かなかった地域の生活支援の部分を、社協さんや様々な団体と連携しながらうまく支援に持ち込んだり、治療につなぐことができたように思います」と話してくださいました。「相談も訪問の時だけでなく、不眠などで困っている方や障がいを持っておられる方が、自分からなごみに来られるようにもなりました。市内にクリニックができたということもあるとは思いますが、メンタルの相談に対する垣根がこれまでよりもぐんと低くなったように感じます」。震災後に再開した福祉施設の職員の方々が混沌の中で疲弊してしまわないようサポートを続けたこともありました。「自分達で事例検討会を開催できるよう1年間支援しました。もちろん私たちの力だけではないと思いますが、今では職員同士で問題解決の糸口を見つけ出せるほど力をつけました。私たちの存在が地域でがんばっておられる保健センターや保健所、社協の皆さんが抱える問題ケースや困難ケースの解決の一助にはなっているのではないか…と思うこともあります」。サロンはこれからも継続
今春「地域活動支援センターなごみCLUB」もスタート
震災から丸4年が経過した今年は、仮設住宅などから復興(災害)公営住宅に住み替える方が多くなります。4年間暮らした仮設住宅には相談したり、集まって団体意識が持てる環境ができていますが、出てしまうと新しい場所でまたコミュニティを築かなければなりません。生活再建のスピードに差が生まれて復興格差のようなものも出てきています。周りは復興していくのに自分だけが取り残される…そんな不安を抱えている人もおられます。これからのことを伺うと「私たちにできることは、社協さんはじめ様々な関係機関とつながり、必要なときにすぐに支援に結び付けられるような関係を強くしておくこと。心と身体の健康に効く運動やおしゃべりができるようなサロンを続けること。震災前と同じような趣味を持てるような環境を提供する支援の継続などです」と話しました。高齢者や子どもの問題、アルコール依存については、啓発活動を通して少しでも相談しやすい環境、相談しやすい関係を作っていきたいと思っているそうです。病院や社協、行政との事例検討会や勉強会を開催したり、生活支援相談員さんたちがアルコール依存の方たちとどう向き合うかなどの勉強会も検討中とのこと。「障がいを持っている方への訪問は、訪ねるだけでは解決できないことがあります。就労系の作業に馴染まないなどの悩みがそうです」。そうした方々の生活支援の拠点、ほっと一息つける場所、仲間と出会える場所として気軽に利用できる「地域活動支援センターなごみCLUB」「相談支援事業所なごみCLUB」も今春スタートしました。
相双地域のメンタルヘルスを守るためにコンテンツを増やしながら活動を続けるなごみの魅力は、訪問でも相談でも、まずその人の良いところに着目し解決の糸口を見つけて行こうとする姿勢です。メンタルヘルスで気になることがあったら、なごみを訪ねてみてください。
●取材を終えて●
震災から丸4年が経過しました。時が経てば解決の道筋が見えてくるかと思いきや現実は違いました。長い年月が問題を細分化・複雑化させていきました。乗り越えても乗り越えても困難はやってきます。米倉さんも「心配なのは、これからです」と話します。本当の苦しみは、一人では外に出せないそうです。出し方もわからないし、出せないから苦しい。心が疲れているなと思ったらどうか無理をせずにふくしま心のケアセンター※を訪ねてください。(井来子)※ふくしま心のケアセンターは、基幹センター、県北方部センター、県中県南方部センター、会津方部センター、いわき方部センター、相馬方部センター(NPO“なごみ”委託)があります。
http://kokoro-fukushima.org/
団体名 | 相馬広域こころのケアセンター なごみ | ||||||||
代表者 | センター長 米倉 一磨 | ||||||||
設立時期 | 2012(平成24)年1月 | ||||||||
構成メンバー | 常勤8人 | ||||||||
所在地 | 〒976-0016 福島県相馬市沖ノ内1丁目2-8 | ||||||||
TEL | 0244-26-9753 | FAX | 0244-26-9739 | ||||||
南相馬事務所 | 〒975-0014 福島県南相馬市原町区西町1丁目80-4 | ||||||||
TEL | 0244-26-9353 | FAX | 0244-26-9353 | ||||||
URL | http://soso-cocoro.jp/ | ||||||||
nagomi@soso-cocoro.jp | |||||||||
■県内外からの支援活動についての問い合わせや相談について | |||||||||
TELまたはFAX、mailでお問い合わせください。 | |||||||||
■現在、共に活動しているNPO法人、市民活動団体等 | |||||||||
・相馬市社会福祉協議会 | |||||||||
・南相馬市社会福祉協議会 | |||||||||
・新地町社会福祉協議会 | |||||||||
・近隣の病院、診療所、福祉事業所など | |||||||||
・世界の医療団(医療者派遣) | |||||||||
・ICA文化事業協会 |