社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

ラジオのススメ

2011/10/03
 

震災直後、一番の情報源はラジオでした。3月11日の夜は、車の中で一夜を明かそうと思いました。暗闇を見つめながらずっと聴いていました。体験したことのない大きな災害に半ば茫然としながら、公民館の駐車場でスピーカーからの声を頼りに気持ちを励ましていました。アナウンサーの方は時折に涙ぐんだりしながら、懸命に情報を伝えてくれました。耳を傾けることで、なんとか落ち着きを保つことが出来ていたように思います。

それからはラジオというメディアをあらためて信用し、傍に置くようになりました。強い余震に見舞われた時にも、震度や被害はどうだったか、すぐに確認しました。気(き)が滅入って(めいって)落ち込んだ時も、モンモン(悶々)としてしまうのを意識的に避けるためにスイッチを入れました。ラジオはどこかへと一瞬にして連れ出してくれました。家から一歩も出られない時に、外の世界への窓口のような役割を果たしてくれていたのです。

今も、原稿を書こうとして初めが出てこなかったり、書き進めていてふっと考えが止まってしまったり…、そういう時にはスイッチを入れます。しばらく耳を澄ませて、後は音を低くしたり消したりして、それから書き出します。何かを感じたり、物を考えたりする時の心の準備が、こうすることできちんと出来るように思うのです。執筆への切り替えの瞬間を見つけることが出来ます。だからいつもラジオは、書斎の机の隣にあります。

講演や取材などの仕事の関係で、ホテルで過ごすことが時折にあります。実は旅先の枕ではなかなか眠れないタイプなのです。夜に部屋のテレビを見ていても、なんだかあんまりくつろげません。それでは…と探してみると、最近のホテルにはベッドの脇にラジオが設置されていない部屋がとても多いのです。それであらかじめ、小型ラジオを持っていきます。その土地の放送を聴いているうちに、静かな気持ちになって、眠りに就きます…。

人はそれぞれに周波数のようなものを持っていると思います。そのことをラジオは私たちに教えてくれます。番組を探して周波数を合わせていると、自分自身を探しているような心持ちになります。見つけたと思った瞬間に、私たちに、新しい時間を約束してくれるのです。大変な震災の時を、今も私たちは過ごしています。だけどここでお互いに〈周波数〉を見失わないで、共に福島というふるさとを見つめていきたい…と願っています。


詩人 和合 亮一



[プロフィール]
和合 亮一(わごう りょういち)
1968年福島市生まれ。国語教師。第1詩集「AFTER」(1998)で第4回中原中也[なかはら ちゅうや]賞受賞。第4詩集「地球頭脳詩篇」で第47回晩翠[ばんすい]賞受賞(2006)。日本経済新聞誌上等にて「若手詩人の旗頭的存在」と目される。震災以降、福島からTwitterにて「詩の礫」と題した連作を発表し続け、大きな反響を呼んでいる。※アカウント(@wago2828)。2011年6月、これらの作品群を、「詩の礫[つぶて]」(徳間書店)、「詩の黙礼」(新潮社)、「詩の邂逅」(朝日新聞出版)として3冊同時出版。同年、PROJECT FUKUSHIMA!を立ち上げ、8月15日、福島の今を見つめ、世界に発信する世界同時多発イベントを開催。坂本龍一のピアノ、大友良英のギターと共演。

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