社会福祉法人 岩手県社会福祉協議会
地域福祉企画部 コミュニティ振興グループ
主任主査 田澤 晶子
■ 岩手での生活支援相談員活動の特徴
県内では、現在約150人の生活支援相談員が、沿岸市町村に住み続けている被災者と、市町村を超えて避難した内陸避難者と、避難生活の背景も心に抱えるものも異なる双方への支援を続けています。■ 自治会支援の先にあるもの
災害公営住宅での住民同士の新たなつながりをつくるため、生活支援相談員が自治会の立上げ支援でも役割を担っています。行政、NPO等の支援団体と社協が連携し、入居前後の交流会、自治会設立準備委員会、設立総会、設立後の自治会運営など、住民による自立した運営ができるよう、それぞれの段階に応じた関わり方をしています。特に、災害公営住宅に入居する方は、高齢者が多い、一人暮らしが多い、何らかの支援を要する人が多い、自治会運営や地域活動の経験値の少ない方が多い等の傾向があるため、自治会の立上げ段階から丁寧な関わりが必要です。住民の合意形成を促すためには話し合いの進行役が重要な役割となりますが、生活支援相談員は事前にファシリテーターや記録係の心構え等を研修しました。発言力の強い方の独断専行とならないような話し合いが持てるように促したり、支援者への依存度が高くならないように程よい距離を保つなど、住民の状況に応じたきめ細やかな配慮をしています。
自治会支援をすべきか、どこまで関わるべきか、という議論もありましたが、自治会支援の目的は、「自治会を立ち上げること」の先にある、「住民の主体形成」と「福祉コミュニティづくり」です。これを目指すために、自治会支援は生活支援相談員の業務の1つと考えることができます。
自治会は設立がゴールではありません。自治会の運営の経過の中で、住民の交流が深まり、お互いに見守ったり、支援を要する人の存在に気づいたり、その人を支えるための方法を考えるという、福祉的な支え合いの土壌づくりが目的です。このような福祉コミュニティづくりは、支援者側から押し付けたりお願いしたりするものではなく、住民が自分の意思で、住民同士で活動していくことが大切です。個別訪問で見せる顔、サロンで見せる顔、自治会で見せる顔など、その場その場で住民が見せる顔を知ることによって、人と人の橋渡しがしやすくなります。活動のアイデア出しやちょっとした事務の手伝いなどで住民の活動を促すことが私たちの仕事であり、個別支援と一体となった地域支援です。自治会立上げの時間経過を住民の方々と一緒に過ごすことは、その後の地域づくりの土台になっていくのだと考えています。
■ 事例検討と活動事例集から
生活支援相談員配置以来、事例検討を研修に取り入れ、活動記録として事例集を作成してきました。直近3年分の活動事例集に掲載された事例の題名には次のようなものがあります。- 体調を崩しながらも新しいコミュニティづくりを思い描いた住民への支援
- 両親の死をきっかけに自殺を図る男性への寄り添いと支援
- 住まいの移行期に高台移転を希望する応急仮設住宅入居者が抱える悩み
- 5年ぶりの帰村で災害公営住宅に入居し、新生活をスタートさせた世帯への支援
- 地域自治会に組み込まれた災害公営住宅団地会の課題
- 会えない住民の安否確認活動
- 認知症状で悪化する周囲との人間関係
時間の経過と共に変化する相談内容と活動内容に対し、事例検討によって新たな気づきを得ながら、力をつけてきました。
■ 被災者支援の収束期に向けて
これまで活動してきた生活支援相談員の皆さんとその活動の成果は岩手の財産です。国が定めた復興期間の終了を控え、生活支援相談員活動又はその類似機能を持つ仕組みを一般施策として継続し、被災者のみならず、岩手に暮らす人々が住み慣れた地域で安心して生活できることが私たちの願いです。「復興」のゴールがどこにあるのか、まだ答えは見つかりませんが、ひとりぼっちをつくらない、住みよい地域づくりのために活動していきたいと思います。
岩手県社協HP
http://www.iwate-shakyo.or.jp/