サイトアイコン 福島県避難者生活支援・相談センター

孤立しがちな親を支える家庭訪問型の子育て支援「ホームスタート」

行政と民間の連携で誰もが安心して暮らせる町づくり

特定非営利活動法人こころの森(以下、こころの森)は、まちづくり関連の市民活動から生まれた団体です。2004(平成16)年の発足以来、「子育て支援」「障がい者支援」「高齢者支援」を3本柱に活動しています。10年前、町の委託を受けてスタートした「ファミリーサポート事業※1」(以下、ファミサポ)や介護保険適用外の高齢者の通院や買い物の付き添い、障がい者の送迎援助や活援助など、「町民だれもが安心して暮らせる町づくり」「子育てするなら会津坂下町」を目指して様々な事業を展開してきました。理事長の渡部栄子さんは「会津坂下町は、もともとNPOと行政の協働が進んでいる町です。私たちの中には、自分達でやれることは自分達でやろうという思いも強く、常日頃から民間と行政が連携しながら活動してきました。だからこそ震災後に始めた『ホームスタート※2』も、仕組み自体が素晴らしいのはもちろんですが、行政と民間のパートナーシップがうれしい手応えにつながったんだと思います」と話します。

▲「特定非営利活動法人こころの森」理事長・「ホームスタートばんげ 」オーガナイーザー 渡部栄子さん

※1ファミリーサポート事業 育児の援助をしてほしい人(依頼会員)に育児の手助けをしたい方(提供会員)で組織され、会員の相互援助活動により育児の援助(有償ボランティア)を行う。
※2ホームスタート 未就学のお子さんがいる家庭に、研修を受けた地域のボランティア(ホームビジター)が週1回、2時間程度無料で訪問。お話を聞く「傾聴」と一緒に家事や育児などの「協働」を通して、ひきこもりがちな親子が孤立しないように寄り添ってサポートする仕組み。アセスメント、モニタリング、評価という共通指標を持ち4回から6回を1サイクルとし終了後にモニタリングを行う。ホームビジターによる訪問支援の調整や見立てを行うのがオーガナイザーで、目標に到達できていない部分があれば訪問の延長も可能。現在、ホームスタートは世界で22カ所。日本では、70カ所以上の市町村に広がっている。



大震災後に始めた家庭訪問型子育て支援

大震災発生時は、葛尾村から会津坂下町に避難されてきた皆さんの避難所に物資を届けたり、こころの森だけでなく町内の他団体と連携しながら子どもたちのための「子どもの遊び場」を開設するなど奮闘しました。「避難所を会場に3月生まれの子ども達を中心にお誕生会を開催したときは、200人もの人が集まり皆さんとても喜んでくださいました」。その後、葛尾村の皆さんは、三春町の仮設住宅に引っ越し避難所も閉じられましたが、町内の民間借り上げ住宅には、浜通りから避難された方々が暮らしています。「数カ月後には冬が来ます。慣れない土地で子育てをする時のことを想像したんです。不安でいっぱいなんじゃないかと思いました。孤立感も心配でした」。そこで渡部さんはある決断をします。「どうしようか迷った時期もあったのですが、やはり『これはやらなきゃ』と思って始めたのが、英国生まれの家庭訪問型子育て支援『ホームスタート』だったんです」。

▲こころの森は、県内で初めてホームスタート事業を展開するなど、これまでの活動が認められ、平成25年度「新“うつくしま、ふくしま。“県民運動」において福島県知事から感謝状が贈呈された


英国発祥のホームスタートとの出会い

渡部さんとホームスタートの出会いは、2010年にさかのぼります。「福島県の子育て支援のリーダー研修で講師のお話を聞いて『あっ!』と思うことがありました」。10年間、ファミサポ事業を続けて来た渡部さんには、日頃からなんとかしたいと思っていたことがありました。「親ごさんの支援です。ファミサポは、お子さんを預かる仕組みなので、親ごさんが子どもをお迎えにきたところで活動はお仕舞い。でも、なかにはお迎えに来たときに話しをしたい親御さんもいて・・・そこをなんとかできないかとずっと思っていました。もう1つは、子どもさんとどんな風に遊んだらいいのか悩む親ごさんの支援です。どちらもファミサポの仕組みでは、満たせないニーズでした」。
一方、ホームスタートは、親子が暮らす自宅をホームビジター(研修を受けた地域のボランティア)が訪ねてフレンドリーに話を聴くというもの。「お母さんが慣れない土地に引っ越してきて町の様子がわからないと言えば、ホームビジターと一緒に公園や広場にお出かけもできます。ファミサポとホームスタートと両方があれば、町内の子育て支援を手厚くできると思いました」。こころの森のメンバーと話し合いゆくゆくは、ホームスタートを会津坂下町の事業にしたいと思い2011(平成23)年3月5日に、約100人を集めて勉強会を開催した矢先の大震災でした。


孤立感の解消は100%達成。つながり、温もる訪問支援

同年10月、こころの森は、ホームビジター養成講座を開催し「ホームスタートばんげ」を立ち上げました。町の保健師や保育所等とも連携し、まずはモデル事業ということで同年12月から県内初のホームスタート事業を開始しました。「最初の訪問先は、町内で暮らす親子でした。この事業をよく理解してくださっている町の保健師さんが、以前から気にかけていたお母さんと私たちをつないでくださいました」。浪江町から避難されてきた方で未就学の子どもを3人抱えていたお母さんから電話が入ったこともあります。基本的にホームスタートばんげの活動は、町民も被災者も問いません。「お電話くださる方は、皆さん会津坂下町に住む住民の一人として申し込まれるからです。私たちが大事にしているのは、支援を必要としている方との1対1の関係です。そこから安心と信頼が育まれていきます」。浪江町から避難してこられた方は、仲良しだったお友達と離れ離れになり引きこもりがち。自分から外に出る元気もない感じでした。心配した渡部さん達は、支援物資と一緒にホームスタートのチラシを届けるなどの働きかけをしました。「1年ほど経った頃『訪問をお願いしたい』と電話がきたんです。うれしかったですね。ホームスタートばんげを立ち上げてよかったと思いました。その方は、ホームビジターとお子さんと3人で出かけて外で遊んだりするなかで少しずつ元気を取り戻して行かれました」。
気楽に話せる相手がいなくてさみしい。下の子が生まれてゆっくり上の子と遊ぶ時間が持てない。子どもに泣かれると辛いなど、子育ての大変さをちょっとだけ誰かの力を借りて解決できると、お母さんの心にゆとりが生まれ、もともと持っている力を発揮できるようになると渡部さん。「それは、目に見えてです。これまでに19件関わっていますが、孤立感の解消は100%達成されています。不安を話すことですっきりしたとか。『(自分の子育てが)これでよかったんだ』など、自信が持てたという声もいただいています」。





集団は苦手という方に、気軽に利用できるプレ・ひろばを用意

現在、ホームスタートは、会津坂下町のほか、いわき市、二本松市、福島市など、県内に11カ所あります。子育て支援の1つとして県内各地で取り組まれていくことを願って民間団体や市町村の協力を得ながら普及活動も行っています。渡部さんは、1カ所でも多く立ち上がってほしいと事例発表を行うなど協力を惜しみません。並行してこころの森とホームスタートばんげ主催のホームビジター養成講座を開催して人材を育てています。「研修を積んだ祖父母世代が育児支援者として活躍しています」。
また、ホームスタートの訪問支援を終了した後のフォローとして「プレ・ひろば」も開設しました。「大勢のなかに入っていくのは苦手という方、慣れない環境で自分のことで精一杯という方のために、気軽にうちのボランティアスタッフとおしゃべりしながら過ごせるスペースを作りました」。利用は無料。予約制なので安心して過ごせます。ぜひ、お子さんと一緒に出かけてみてはいかがでしょう。新しい出会いの扉が開くかもしれませんよ。

▲プレ・ひろば“こころの森”場所は、会津坂下町保健福祉センター2F。お子さんと遊びながら気軽にスタッフとおしゃべりできる。無料・予約制・利用時間9:00~17:00 0242-83-0708



●取材を終えて●

「町民だれもが安心して暮らせる町づくり」「子育てするなら会津坂下町」を目指すこころの森の活動は、今年で11年目に入りました。渡部さんの取り組みを伺うほど平常時から行政と民間との協働が進んでいる会津坂下町の温もりが伝わってきます。町民、避難者不問。「皆さん会津坂下町に暮らす住民です」と話す渡部さん。互いを思いやりながらしなやかに繋がり、広がって行く。その先に復興と未来があるのですね。(kamon)





団体名 特定非営利活動法人 こころの森
代表者 理事長 渡部栄子(わたなべ えいこ)
設立時期 2004年3月24日認証
所在地 〒969-6553 福島県河沼郡会津坂下町字西南裏甲3998-1

会津坂下町保健福祉センター2F
TEL&FAX 0242-83-0708(特定非営利活動法人 こころの森) TEL&FAX 0242-23-9320(ホームスタート・ばんげ)
■県内外からの支援活動についての問い合わせや相談について
TELまたはFAXでお問い合わせください。
■現在、共に活動しているNPO法人、市民活動団体等
・会津坂下町
・NPO法人ホームスタート・ジャパン
・NPO法人市民活動支援組織NIVO
・NPO法人スポーツクラブバンビィ
・ふくしま子育て支援ネットワーク
・福島ホームスタート推進協議会









モバイルバージョンを終了