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激論を交わすよりもみんなで共通の夢を持とう!


激論を交わすよりもみんなで共通の夢を持とう!
離散した町民の絆を保ち、
町外支援のプラットフォーム機能も果たす市民活動

▲特定非営利法人まちづくりNPO新町なみえ 理事長 神長倉豊隆さん


浪江町の新町商店会のメンバーを中心に
2012年1月に誕生したNPO法人

特定非営利法人まちづくりNPO新町なみえ(以下、新町なみえ)は、双葉郡浪江町でまちなかの活性化と住みやすい地域づくりを目標に活動していた「新町商店会」のメンバーを中心に誕生した団体です。きっかけは2011年5月下旬、二本松市内で震災後初めて開催された浪江町商工会の集まりでした。「バラバラに避難していたみんなが集まったときに『何かしたい』という話になりました。毎年、夏には盆踊り、秋は十日市祭を開催していたことから『避難先の二本松市でも』ということになりました」と話すのは、理事長の神長倉豊隆さんです。
同年8月、二本松市本町商店会の皆さんと一緒に夏祭りを開催すると約3,000人の町民が集まりました。11月には、約140年の歴史を持つ「十日市祭」を開催しました。すると例年の約4分の1の規模だったにも関わらず2日間で約3万人が訪れました。「十日市祭の準備に追われている頃、任意団体からNPO法人にしようという機運が高まり2012年1月に登記を済ませました」。団体名には、浪江町の中心部にある『新町』とこれから新しい町を作っていきたいという2つの思いが込められています。
▲2014年8月11日に開催された「浪江町の盆踊り」 場所/二本松本町通り大東銀行付近路上

▲「復興なみえ町十日市祭」(2013年11月開催 場所/二本松市駅前)。震災後の十日市祭は、二本松市からも「菊人形の時期にぜひ」と要請があり、2011年11月に最初の「十日市祭」を開いた。当初、200軒近い露店の申し込みがあったが敷地に限りがあるため70店に絞り込んだ



イベントやワークショップを積み重ねながら
避難生活を乗り切るための方策を考える

全国に離散した町民の絆をつなぎ、ふるさと浪江の復興を目指す新町なみえと早稲田大学都市・地域研究所+都市計画佐藤滋研究室との出会いは、もともと二本松市のまちづくりに同研究室が協力していたことがご縁でした。
「復興に向けた提案を複数、それも具体的に示してもらえたのでとてもイメージしやすかったことを覚えています。その中から『これだったら』という案を受け入れ始めたのが『復興まちづくりワークショップ』です。原発事故で全域が警戒、計画的避難区域(※)に指定されて全町民が避難している浪江町の復興や町外コミュニティの形成、避難生活を乗り切るための方策を、イベントやワークショップを積み重ねながら考えて行こうと思いました」。
▲「浪江町の区域再編」浪江町内への立ち入りのしおり(平成26年改訂)より
※2013年4月1日浪江町は、帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域に再編された。2014年4月30日現在の町民避難状況は、県内避難者数14,668人、県外避難者数 6,403人



活動の3本柱「人と人をつなぐ」
「人とふるさとをつなぐ」「人と未来をつなぐ」

活動の3本柱「人と人をつなぐ」「人とふるさとをつなぐ」「人と未来をつなぐ」は、NPO法人設立の準備を進めて行くなかで明確になりました。「人とふるさとをつなぐ」活動として位置づけているのが、ふるさとの伝統文化・芸能活動の場と創出と継承を目的に開いている「復興なみえ町十日市祭」や「なみえの盆踊り」です。「人をつなぐ」活動として展開しているのが、福島県内はもとより全国各地で開催している復興交流会や自治会の支援、なみえ焼そばの提供です。行政と共に開催したこともあった交流会は、2012年から2013年の間に県内外含め約50回開催。2014年度は、県内に絞って開いています。
▲避難先の支援組織の協力を得て県外で開催された浪江町交流会の様子。「仮設住宅、借り上げ住宅で暮らす皆さんも含めて皆さんの一番の悩みは『どこに落ち着いたらいいのか』ということ。交流会では、相談を受けたり、ワークショップから見えてきたまちづくりの話をしたりして共通の夢を持ち、希望が少しでも見えるよう努めています」と神長倉さん



2013年3月、民間版まちづくり計画
「浪江宣言13・03」を発刊

「人と未来をつなぐ」活動として取り組んでいるのが、「復興まちづくりワークショップ」「シンポジウム」「3.11復興のつどい」です。原発事故の収束も放射線の問題も見通しのないままではあっても、復興に向けての具体的なデザインは描けるはず。夢が見えてくればそこから今、何をすべきかが見えてきます。浪江町の復興について話し合うワークショップは、2012年5月からスタートしました。
「初年度は、二本松市を皮切りに南相馬市、東京都内の東雲住宅にも枠を広げて開催しました。最初は『帰れる』『帰れない』の大激論になりました。が、一人の発言者の『よく考えてみてください。激論を交わすよりもみんなで共通の夢を持って、浪江を将来こんなふうにしたいと思うような形を作っていく方がいいんじゃないでしょうか』という言葉によって参加者の意見が建設的なものになっていきました」。
二本松市内で開催したワークショップでは、実際に浪江町の模型を囲みながら意見を書いた旗を挿して整理する「旗指ゲーム」を、東京都内の東雲住宅では、ふるさとと決別するのではなく、どのように関わっていくことが出来るかなど模型を囲みながら意見を交しました。同年8月には、冊子「浪江町―復興への道筋と24のプロジェクト」をまとめて浪江町に提言。翌年3月には、前年にまとめた冊子を出発点に、より具体的なプロジェクトをと検討してきた民間版まちづくり計画「浪江宣言13・03」をまとめました。
「浪江宣言には、避難先の中心市街地に協働復興街区を建設する『まちなか型町外コミュニティ』など具体的なプランも記してあります。浪江のまちづくりと避難先の中心市街地の活性化が共同歩調できたらという願いを込めたプランです。コミュニティというのは、そこに生業もないと賑やかになっていきません。床屋さんや洋服屋さん、福祉関係の事業所など、小さながらも事業の再開に向けた動きも盛り込みました。浪江の町外コミュニティが受け入れ先で活発に動くことで避難先の中心市街地も活性化していくというようなイメージです」。

▲町民の皆さんの意見を集約しまとめた冊子「浪江町―復興への道筋と24のプロジェクト」(2012年8月16日刊)
特定非営利法人・まちづくりNPO新町なみえ:発行
早稲田大学都市・地域研究所+都市計画佐藤滋研究室:編集
▲「なみえ復興双六」。24のプロジェクトを双六として一枚に表現したもの。数字は、プロジェクトの番号。第一段階から第四段階まで4つの段階の関係性が分かるようになっている。「浪江町―復興への道筋と24のプロジェクト」より引用
▲「浪江宣言13・03 協働復興まちづくりに向けた具体像と実現に向けた協働の仕組みの提案」(2013年3月9日刊)には、提言1.避難先自治体に避難者が安定して暮らすことのできる「町外コミュニティ」を実現するために、多様な復興公営住宅建設を可能にする支援制度、特例措置を求めます。など、10の提言と6つの具体的な始動プロジェクトがまとめられている
特定非営利法人・まちづくりNPO新町なみえ:発行
早稲田大学都市・地域研究所+都市計画佐藤滋研究室:編集



町外コミュニティの在り方を考えるワークショップ
復興公営住宅の模型を使って暮らしを疑似体験

その後も新町なみえのみなさんは、浪江町と避難受け入れ先地域の一つ二本松市の両市民が連携して町外コミュニティの検討や、福島県全域を対象にした復興シンポジウムなども開催しながら具体的な復興の在り方を検討してきました。2014年5月に発行した「浪江宣言ver.2 14.05福島 連携復興まちづくりと地域再生」には、前年の「浪江宣言13・03」を実行に移していくための緊急要請項目と実現に向けての具体的な提案が分かりやすくまとめられています。
「最近はワークショップの中身も復興公営住宅の理解を深める内容などに移ってきています。このまま暮らしていけるわけではありませんのでね」。引っ越せば、そこでまたコミュニティの再編が生じます。どう生活を再建していくか…。「この夏、そのヒントになればと思って開催したのが復興公営住宅での暮らしを模型で疑似体験するワークショップです。実際に暮らしがイメージできると集会所の駐車場は広い方がいいとか、浪江で商店を営んでいた人が営業できるスペースもほしいとか、いろんな希望が出ていました。」

▲2014年8月、二本松市内で開催されたワークショップ。復興公営住宅での暮らしを模型で疑似体験。診療施設や集会所、福祉施設、小学校、農地、商業施設など、互いにほしい施設の意見を出し合った
▲「浪江宣言ver.2 14.05 福島 連携復興まちづくりと地域再生」(2014年5月9日刊) 浪江町復興まちづくり協議会:NPO新町なみえ+二本松・浪江連携復興支援センター
協力:早稲田大学都市・地域研究所+都市計画佐藤滋研究室+交通計画浅野光行研究室



浪江町民のための活発な活動が評価され
平成25年度「地域づくり総務大臣表彰」団体表彰を受賞

シンポジウムは、一般社団法人ふくしま連携復興支援センターと一緒に「ふくしま復興まちづくりシンポジウム」を過去2回開催しています。第2回「ふくしま復興まちづくりシンポジウム」(2014年3月開催)では、復興公営住宅の建設や入居が進んでいくなか、喫緊の課題となっている町外コミュニティの早期整備に向けて浪江町の町民と産学関係者が連携の在り方を探りました。ほかにも今年は、「浪江町のためになにかできないか」という東京在住の支援者の方々の思いと、町の未来のために「何かできないか」という浪江町民の思いを重ね合わせた企画「きてほしい浪江 Tシャツコンテスト」(デザイン募集期間/2014年1月~2014年3月9日)を開催。好評を博しました。
もう1つ新町なみえの皆さんを喜ばせたのが「避難生活を送る町民を元気づける活動であると同時に、町外者からの支援のプラットフォーム機能も果たす活動」「故郷を離れた人々の心を繋ぐ活動」「受け入れ地域の人々との活動」など、多岐にわたる活発な取り組みが評価され平成25年度の「地域づくり総務大臣表彰」で団体表彰を受けたことでした。
「私たち浪江町民は、今後数年、もしかすると数十年間にわたって故郷で暮らすことができないかもしれません。風化も否めません。それでも私たちは、浪江の絆やコミュニティを失いたくありません。悲しい出来事やつらく厳しい現実を『祭り』に置き換えることで、踏みとどまりたいと思います。祭りを通して町民や町を応援してくれる方々とも絆を深めて行きます。今年からスタートしたTシャツコンテストも祭りです。子どもたちが住めるようになる時に『来てほしい』と観光客を呼べるようにしたい。その時のために『着てほしい』という願いを込めた祭りです。私たちは、これからも様々な活動を通して、思いをつないで行きたいと思っています」。
現在、新町なみえでは第2回「きてほしい浪江 Tシャツコンテスト」のデザインを募集中です(2015年1月23日締め切り)。来る10月28日(火)には、第3回シンポジウム、11月29日(土)、30日(日)には、浪江の皆さんの元気のもと、第3回「復興なみえ十日市祭」が開催されます。ぜひ、お出かけください。



▲第二回「きてほしい浪江 Tシャツコンテスト」募集チラシ
http://www.namie-t.net/


●取材を終えて●
「今までなかったことをやっているわけですから私たちも簡単にいくとは思っていません。しかし時間が経つほどに人々はバラバラになっていっていきます。どんなに厳しくても、時間がかかっても町外コミュニティをどうしていくか、いかに住みやすい環境を作っていくか話し合い、考えて行くことはとても大事です」と語る神長倉さん。地元の支援者の協力を得ながら全国各地で開催してきたワークショップで具体的な表示や言葉に希望が宿ること。その希望が人々の背中を押してきたことを分かっているからこその言葉です。これからも避難先との連携、協働を大切にしながら復興のまちづくりを進めていきたいとのこと。多くの町民の夢と覚悟と決意をまとめた民間版まちづくり計画「浪江宣言」がバイブルとなってみなさんの背中を押し続けていくように思いました。(kamon)



団体名 特定非営利法人 まちづくりNPO新町なみえ
代表者 神長倉 豊隆
設立時期 2012/1/4
スタッフ 常勤5名 会員28名
主な資金源 助成金・寄附・会費
所在地 〒964-0904 二本松市郭内1丁目81
TEL 0243-22-2161 FAX 0243-22-2161
URL http://sinmachinamie.com/
まちづくりNPO新町なみえFacebook
E-mail zimukyoku@sinmachinamie.com
■県内外からの支援活動についての問い合わせや相談について
TELまたはmailでお問い合わせください。
■現在、共に活動しているNPO法人、市民活動団体等
・ふくしま連携復興支援センター http://f-renpuku.org/
・早稲田大学都市・地域研究所+都市計画佐藤滋研究室
・うつくしまNPOネットワーク http://www.utsukushima-npo.jp/
・二本松・浪江連携復興支援センター
・浪江町
・浪江町商工会
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