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非営利団体 KAKECOMI

誰も孤立しないための居場所づくり
キーワードは多様性を認め合う・対話・居場所

2015年秋、白河市で産声を上げた「非営利団体KAKECOMI※」は、生きづらさを抱えた子どもたちのための居場所、「まかないこども食堂たべまな」を軸に活動している団体です。発起人・代表の鴻巣麻里香(こうのす まりか)さんは、一時ふくしま心のケアセンターに在籍し、被災者・避難者のメンタルケアを行ったり、自治体や公共機関が実施した市民対象の心の相談にも関わっていました。誰も孤立しないための居場所づくりなど鴻巣さんたちの活動が、生活支援相談員の皆さんの参考になるのではないかと思いお話を伺ってきました。

※「KAKECOMI(カケコミ)」と言う名称は、かけこみ寺とコミュニティを組み合わせた造語。安全でなおかつコミュニティにもつながっている居場所という意味を込めた。


地域で一番居場所を必要としているのは誰か
問いかけからスタートした子ども食堂

「非営利団体KAKECOMI」(以下、「KAKECOMI」)の発起人・代表の鴻巣麻里香さんは、埼玉県のご出身です。白河市に拠点を構える前は、茨城県内の精神病院関連施設に勤務されていました。大震災後にはふくしま心のケアセンターの県南方部センターに在籍し、矢吹町や白河市を担当。県南地区の市町村社協の生活支援相談員とも一緒に活動した経験を持っています。現在は、フリーランスのソーシャルワーカーとして活動されています。

有償スタッフ2名と無償ボランティア約20人が、ゆるやかにつながりながら活動している「KAKECOMI」の事業は、子ども食堂※が中心です。始めるにあたっては対象者を絞ぼり込むのではなく、団体の体力と自分たちに出来ることを考えたと言う鴻巣さん。「この地域で一番居場所を必要としているのは誰かと言ったら子どもたちです。その次は子育てに悩む親御さん、特にシングルマザー・ファザーです。まずは、そこから始めて少しずつ広げていこうということになりました」。

※子どもやその親、地域の人々に対して無料または、安価で食事や居場所を提供する社会活動


▲鴻巣麻里香さん 非営利団体KAKECOMI発起人・代表、精神保健福祉士、福島県スクールソーシャルワーカー

毎週月曜日に開いている「たべまな」
子どもたちと仲間たちがつくる

新白河駅近くの一角にある「まかないこども食堂たべまな」(以下、「たべまな」)がオープンするのは、毎週月曜日。午後3時から午後8時までと決まっています。その間、子どもたちは気軽に、無料で食事ができ、勉強も教えてもらえます。食べて、学べる空間では、ボランティアでやってくる高校生や大人たちも一緒に思い思いに過ごしていきます。

なぜ月曜日に開くようにしたのでしょうか。鴻巣さんは「学校に行けない子は、月曜日が一番辛い。だったら『たべまな』からスタートすればいいんじゃない? 月曜日の夕方ここへ来て、火曜日から行ければいいんじゃない? という気持ちで決めました」と話します。一昨年の利用者数を平均すると14.7人になったという「たべまな」。これまでの2年間を振り返っていただくと「当初のイメージより、ずっと豊かな空間になりました」と鴻巣さん。力になったのは、やはりボランティアで関わってくれる地域の仲間の存在だったそう。食事は、料理の腕前には定評がある鴻巣さんと早く来た子どもたち、親御さんやボランティアスタッフとで作りますが、その食材を提供してくれる仲間、仕事帰りに立ち寄って子どもたちと話をしてくれる仲間、活動のPRに協力してくれる仲間などの存在が大きいと言います。「子どもたちと仲間たちが作り出す雰囲気が『たべまな』を作ってくれているので、とてもありがたいです。私一人では実現しなかったと思います」。
▲「まかない食堂たべまな」(白河市新白河)では、学校に行けない、
クラスで疎外感を感じるなどの相談を受けています。
必要に応じて専門職へつなぐなど具体的に対応しています

▲スタッフで協力し合い民家をリノベーションした室内。心がほっとするインテリアは鴻巣さんのセンス

今福島に必要なのは、それぞれに違うんだ
ということ。多様性を認め合うこと

誰も孤立しないための居場所を提供し続ける「たべまな」と、生活支援相談員さんの活動とが重なる部分を鴻巣さんは「多様性を認め合うこと。それから対話と居場所です」と話します。これら3つのキーワードは、震災から8年目に入る福島に最も必要なことだと思うとも。

例えば、放射線を危険と思うか大丈夫だと思うか、帰還するかしないかなどを、よい、悪い、正しい、間違っているなどで裁かない。大事なのはどれが正しいかではなく、それぞれに違うんだという多様性を認め合うこと。「自分が不安な時って相手が間違っていることにしたくなってしまいます。そういう時こそ、分断を乗り越えていくような仕掛けが必要です。語り合える居場所を作り、話をしながら認め合っていくことが何よりも大切なのです」。99人が「いいよ」と言ったとして、たった1人でも「いやだ」と言う人がいたら「いやだ」という気持ちを丁寧に聞く。最終的に多数決で「いいよ」に決まったとしても、1人は「いやだ」と言ったことをみんなで認めて忘れない。小さな声をできるだけ拾い上げる丁寧な対応をすることで、「いやだ」と言った1人の気持ちも肯定することができます。

私たちの時間と空間で使う定番の小物を用意
話を聞く時はその人の強みに着目する

語り合う居場所を作る時もコツがあるそうです。「場所」と「場」の違いも知っておいてほしいと鴻巣さん。「私は、場所の方が大事だと思っています。当初『たべまな』は、飲食店の一角を借りていました。つまり週1回の『場』です。今は、一戸建てを借りています。地図にも載っていて、私自身もそこに住んでいる『場所』です。こちらでの『たべまな』も週1回ですが、いつでもかけこめる居場所があり、そこにいつでも人がいることは、自分はひとりじゃないという安心感につながります」。

集会所や学習センターなどの一室を利用して「場」を作る時は、イス、テーブルもしくはテーブルクロス、看板など、私たちの時間と空間にだけ使う定番の小物を用意することで、安心できる居場所という意識づけができるそうです。また、「たべまな」に来てもなかなかなじめそうになくて、次に来てくれるか心配な子どもへの工夫として鴻巣さんは、本を貸すこともあるそうです。「返しに来る口実ができるでしょう。また『たべまな』では、お手伝いをした対価としてご飯を食べていいことになっています。大人の方が集まるサロンでしたら、自分の力を人のために役立てることができたらうれしいし、来やすいと思うので、役目を作って『お願い助けて』『力を貸してください』と頼むことも必要かなと思います。何がしたいかより、人のためにできることを依頼される方がお年寄りの方もしっくり来るのではないでしょうか」。

相談支援で鴻巣さんが話を聞く時に意識しているという、その人の強みに着目する聞き方も教えていただきました。「その時、どんな風にされたかではなくどう対処したか。そして、どんな壁を乗り越え、どこに希望を見出してきたかに着目し話を引き出すことで、その人の話は辛い体験を乗り越えた英雄の物語になります」。すぐにはできなくても、こうした聞き方があると知っているだけでも対話のヒントになりますね。

誰も孤立しないための居場所づくりに取り組む「KAKECOMI」の3つのキーワード、多様性を認め合う・対話・居場所が生活支援相談員さんの活動に役立つことを願っています。

▲キッチンで鴻巣さんが作るキムチ鍋作りを早く来た女子が手伝う

▲子どもの初「たべまな」体験を見守る鴻巣さんと親御さん(写真右)と鴻巣さん

■連絡先■

非営利団体KAKECOMI
福島県白河市新白河2‐24(まかないこども食堂たべまな)
TEL0248-21-7912
発起人・代表 鴻巣麻里香
E-mail info@kakecomi.org
http://www.kakecomi.org/


■取材を終えて■

取材で「たべまな」にお邪魔した日、鴻巣さんは一時期、共に活動した生活支援相談員さんの魅力について次のように語ってくださいました。
「専門家は、境界を守る壁を作るのが上手なのですが、相談員さんたちは、境界線を作れず時に問題に巻き込まれ頑張り過ぎて辛くなっちゃうんだけれども、人と人との適切な距離って巻き込まれないことには生まれない。辛いけれどもそのプロセスから少しずつ人間的ないい関係が作られていくのかなと思います。私は、相談員さんたちからたくさんのことを教えてもらいました」。
生活支援相談員の皆さん、神様はいますね。空から皆さんの奮闘をちゃんと見てくださっていますよ。
(井来子)

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